常温核融合は起こったか?

1989年にイギリス・サウサンプトン大学のマーティン・フライシュマン教授とアメリカ・ユタ大学のスタンレー・ポンズ教授が常温で核融合を起こすことができたと発表し、大ブームが起こった。
上記の写真は、核融合をプラズマで起こす装置だが、建設するのに何千億円もかかる巨大な施設を要する代物で、さらに核融合からエネルギーを取り出すことは未だに成功していない。核融合のエネルギーは人類の夢なのである。
それを、ビーカーに電極をつけた簡素な装置で核融合を起こしたというのだから、大騒ぎになるのは当然である。実験に使われたパラジウムは非常に水素を吸収しやすい物質で、自分の体積の936倍の水素を吸収する。
もしかしたらその吸収した水素同士が核融合を起こしたのではないかというのが彼らの主張である。そのことによって核融合に特有のトリチウム、中性子、ガンマ線を検出したとしている。
マスコミは大きな話題として取り上げ、夢のエネルギーとして世界中が息をのんだ。
しかし、熱狂の後には、全く逆の結果が戻ってきた。この実験は世界中の研究所で再試験されたが誰も再現できなかったのである。そしてマーティン・フライシュマン教授とスタンレー・ポンズ教授は学会から干された。
色眼鏡で判断される研究
一時のマスコミ先導の熱狂の後、常温核融合の研究は、オカルトまがいの研究だとしてほとんどの研究者、学会、著名学術誌は見向きもしない物となった。
しかしそれでも、地道に研究を続ける研究者は居続け、異端としてこの研究を続けたのである。
学術雑誌の常温核融合に対する冷たい視線も徐々に緩和されたが、Nature誌など一部の学術誌は今でも常温核融合関連の論文は取り扱わない。
21世紀になり得られてきた実証データ
21世紀に入り、続々とこの分野で実績が出始めている。
◇2008年北大・水野博士の公開常温核融合実験。ステンレス合金製の炉(88cc)に、多環芳香族炭化水素フェナントレン0.1g投入し、高圧水素ガスで満たし密閉。白金とイオウも触媒として添加。水素を加圧すると、巨大な過剰熱が発生。さらに地球にほとんど存在しない炭素13が大量に発生した。実験当初なかった窒素も発生
◇イスラエルのエナジェティクステクノロジー、アメリカのスタンフォード大学・リサーチ・インスティテュート(SRI)、イタリアENEAの合同チームが0.74ワットの入力に対して平均20ワットの電力を17時間にわたり取り出すことに成功
◇DARPA(国防高等研究計画局)が、常温核融合関係の研究に3年間で338万9500ドル(2011年度:167万4500ドル、2012年度:116万5000ドル、2013年度:55万ドル)の予算を計上
などこれまでに3000以上の論文が書かれ、根強く実験され続けている。また、学会を干されたマーティン・フライシュマン教授とスタンレー・ポンズ教授も生涯をこの研究に捧げた。
Summary: 常温で核融合を起こしエネルギーを取り出すことが可能ならば、そのインパクトは大きい。